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共に学んでいた頃、櫂が中学三年のときである。当時、中一だった早紀はよく一緒に下校することが多かった。あの日がくるまでは・・・。

今、思えば本当に些細なことだ。早紀のクラスメイトだった男子数名は学校でもかなり悪い不良として学校中に名が知れ渡っていた。
教師への暴行。器物破損。などは当たり前。誰も注意するものはいなかったと言うよりは誰も言えなかった。といったほうがいいかもしれない。
被害を受けた生徒が教師に相談したところで「気の毒だったな。後は何とかしとくから」と根拠も無いことしか言えない。
しかし、クラスでは気の強いほうだった早紀は何かある度に正面から対立していた。もちろん負けることなど有り得ない。武器を持たずとも不良の三、四人などと倒すことなど動作も無いことだった。大半の生徒や教師はそんな早紀を尊敬の眼差しで見ていた。
だが、攻めるのと反撃では強いという意味は変わってくる。早紀のしたのは反撃だ。自分から手を出すことはほとんど無い。それに対し彼等がしているのは攻めるということ。彼らの前では早紀以外反抗できるものはいない。そう、彼女に勝てないと分かった以上、矛先を変えるだけ、早紀の友達に手を出し、クラスメイトに命令し、全てをそのすべてを早紀のせいにする。直接的な攻めから間接的な攻めに変えることが彼らの新たな攻め方だった。
人は簡単に裏切る。なるべく自分を傷つけないように物事を進めようとする。早紀がそれを知ったのはある日の掃除時間、いつものように数人にサンドバックにされていた男子が職員室から帰ってきた早紀を見て言ったその一言。「お前が出しゃばらなければ俺達まで被害を受けることは無かったんだ」
なんて言い草だろう。助けたときはあれほどまでに感謝してくれたのに、今では疫病神と同じ扱いだ。あれだけ仲の良かった友達もいつも褒めてくれた教師も簡単に裏切った。一ヵ月も経たないうちに早紀の周りに人がいることは無くなった。
それからイジメが始まった事は言うまでもないだろう。精神的な攻撃に耐える術など早紀は持ち合わせていない。それも今まで仲良く学校生活を送って来た友にされる攻撃は非常に痛いものだった。
もちろん日に日に暗くなっていく早紀に櫂が気付かないわけがない。普段は早紀から下校時刻になると来るのだが、珍しく早く終礼が終わって、教室の前まで迎えに行くことにした。
そこには机を遠ざけられて、避けられている早紀の姿。紙くずを投げられ、黒板には悪口。教師はすでにおらず、その光景はあまりにも悲惨としか言いようがない。早紀が気付く。今にも泣き出しそうな顔。見られたくなかった姿。助けて欲しいという気持ちが痛いほど伝わってくる。ちょっとの事では絶対泣いたりしない早紀がここまで追い詰められている。自然と拳は握られていく。どいつもこいつも憎く仕方ない。今、イジメに加わっているものだけではない。本を読んで平静を装っているクラスメイト。馬鹿笑いして話し続ける女子生徒。そう、このクラス全てが憎かった。
「おい、お前、何か用?教室の前でうっとうしいんだけど」
何か用だと、ふざけるな。
用があるならそれは貴様ら全員を殴り飛ばすことくらいだ。
「えっ?」
血が廊下一面に飛び散る。声をかけてきた生徒の鼻は変形し、顔面は原形を留めていない。歯は何本か折れ、あちこちが腫れ上がっている。倒れた生徒を無理やり起こし、腕を取る。その右手を容赦なく膝蹴りでへし折るとあたりに骨の砕ける音と叫び声が響き渡る。
そのまま折れた腕を引きずり教室の中へ入っていく。気絶した生徒を持ち上げ、黒板に叩きつける。
崩れ落ちる黒板。まずは一人目。

「さぁ、次はどいつだ」

教職員が到着した頃には二年三組の教室は地獄絵図を化していた。白塗りの壁は赤く染まり、白い部分はほとんど残っていない。机や椅子は散乱し、男女関係なく血だらけで立っている者はいない。
「た、たすけ・・・」
教室の真ん中に生徒の胸倉を掴んだまま立つ櫂の姿。
「助けて?どいつもこいつもそれしか言えないのか」
「止めなさい。白峰君」
担任が前に出て止めに入ろうとするが、睨まれただけでその場から動くことすら出来ない。
「黙ってろ、あんた等もこいつ等と同じくせに、今更出しゃばっていんじゃねぇよ。」
そう言うと最後の一人を殴り飛ばす。その姿は鬼神のごとく凄まじく、その表情は冷たい。止まることを知らず、止めに入ろうとした教師を新たな標的と認識する。
「お前もだよな?」
他の教員が止めにかかるが、全て返り討ちに遭い無残にも地に倒れていった。

助かった担任はその全てをこう語っていた。
今振り返ってもゾッとする。白峰がいじめを受けていたことも誰もが知っていた。あの時までは彼らが怖かったんだ。注意するだけで殴られそうな気がしてそう考えるだけで手を出せなかった。
だが、どうだ。あの子の目が今でも頭から離れない。あの目。
全てを射殺すかのような目。こんなことならどうして止められなかったんだろう。
知っていた。
気付いていた。
もっと早く止めていればこんなに後悔する必要は無かった。それなのに、彼らが怖い?あんなの怖いうちに入るのか。いや、入るわけが無い。一歩ずつ近づくたびに新たな恐怖を覚えるあの少年と比べるまでも無い。
職務怠慢。そんなもんじゃない。人間として酷い事をした。年配者としてしなければいけない当然のこと。教師として見過ごしてはならないこと。全ては教師になる前から知っていたこと。
「こんなことをしてどうなるか分かっているのか」倒れる前にそういっていた教師もいた。そんなことが言えた立場か。間違えていたのは俺達だ。あの時、白峰が親を呼んでくれてなかったら、あと何人が犠牲になっていただろう。見捨てた俺たちを助けたのは見捨てられた彼女だ。情けない限りであると。

これ以上は話すまでも無い。当時勤めていたほとんどの教師が辞表を提出し、辞めた。あの思い出すだけで恐ろしい惨事は未だに学校の語り草である。

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テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

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