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2/月夜の来客


誰かを斬り捨てるなら簡単だった。
誰かを受け入れることは困難だった。
全てはいつか見た幻。
心に痛みを知ったの日から、私はあなたに憧れた。
 いつか共に行けるなら、私が見てきた全てを見せたい。
大切なことを教えてくれたあなたへの私が出来る恩返し。
 それが叶わぬ夢ならば、私は叶え方を探す旅に出よう。
これからもあなたとともに歩んでいくために。










奴が起きていた。
いや、着いた途端に起きたほうが正しいか、一方的にひたすら話しているが、元気付けだけなら多分、奴の十八番(おはこ)だろう。今のうちに玄さんに経緯を説明する。
「そうか、大体分かった。用はあの子を泊めてほしいってことだろう」
さすが、玄さん。話がはやい。
「で、お前さんはどうするんだ。今日はどこも部屋余ってないぞ」
「えっ、マジっすか。んーじゃあ――」
そういうことなら仕方ない。
「此処の座敷で寝ます。あとで布団だけ貸してもらえますか」
浩平と女の子のところに戻る。
「おい、櫂。何が世ほどのことがない限り会えないだよ。俺が町で見かけた子ってこの子のことだぜ。運命の出会いってやつだ。ねっ、」
かなり困っているようにしか見えない。
「そんなことよりお前、もう帰る時間じゃないのか。彼女も今日は此処に泊まるし、話すなら明日でも良いだろう」
「マジ?じゃあもうそろそろ帰らないと。姉貴に殺されるとこだったんだ。あっ、そうだ。最後にまだ聞いてなかった。帰る前に名前だけ教えてよ」
「片瀬 由利(かたせゆり)です」
「由利ちゃんか。よーし、明日が楽しみだ。じゃあね。ご馳走さん」
開けっ放しの扉を閉めに行く。
うわ、やべっ、あいつスキップしながら帰ってる。

浩平がいなくなったところで本題に移る。
「ところで、片瀬さん。何で追われていたの?」
「それは―――私が研究対象の一人だから」
予想もしなかった言葉に思わず声が出た。研究対象?どういう意味だ。驚いている俺を彼女は気にせず話し続ける。
「この近くに高原病院という病院から脱走してきました」
「えーっと、高原病院ってあのやたらデカイ病院だよな。塀で囲まれているからどんなところか知らないけど、末期の精神患者とかがよくいれられているってきいたことあるけど。」
「脱走って、あの病院から逃げ出す必要があったのかい?」
急に横から玄さんが質問してきた。
「わっ、いきなり現れないでください。寿命縮まりますよ」
「悪い、悪い。で、どうなんだい?」
話が元に戻る。泊めてもらうのだから玄さんにも聞いてもらう必要があるのは当然だ。
「あの病院は表向きだけで実際は人体実験の施設です。精神病患者をいれているというのも万が一の保障に。精神障害だからっていったら誰も疑わないから・・・」
玄さんは思ったより驚いていない。普通いきなりこういうことを言われてもかなり返答に困るものだが。
「じゃあ、警察とかに言いにいったほうが良いんじゃないか?」
「いえ、戸籍がないんです。生まれた時からあの病院に引き取られていたので、本来ならいるはずのない人扱いになります。――だから、」
彼女が話していく度にブルーになっていく。軽く肘で玄さんをつつく。
「あっ、分かった。それなら仕方ないな。訳ありの子には深く追求しないのがうちだからな。疲れているだろうし、今日はゆっくり休みなさい。話はまた明日ということで」
喜美恵(きみえ)さんが奥から出てきた。ちなみに喜美恵さんは玄さんの奥さんである。
「布団の用意できましたよ。あなた、ちょっと話が。櫂君。後で布団持ってきてあげるからね」
「ありがとうございます」
そういうと玄さんを連れて奥へと入っていった。
「えっと、その、ありがとう。助けてくれて」
彼女がさっきとは違う感じだ。これはもしや、なんてことはないがなぜか遠慮気味である。なんだかかなり照れくさいが、
「うん、気にしないで。あっ、自己紹介が遅れたけど、俺は白峰 櫂(しらみねかい)。好きに呼んでくれていいよ。これからよろしく」
「あたしは片瀬 由利です。こちらこそよろしくお願いします」
改めて自己紹介したあと、お互いに少し沈黙する。
気が付けば勝手に手が出ていた。今の雰囲気も関係なく、流れる涙をそっと拭うために、嬉し涙を流す彼女は、今日始めて、俺に笑顔を見せてくれた。

「良いよね~。若いって」
「そうね。昔の私達みたい」
なぜか奥に行っていたはずの玄さんと喜美恵さんがこっそり顔を出してこっちを見ている。
「何をやってるんですか。二人とも」
やっぱり見られているとなるとかなり恥ずかしい。
「皆さん本当にありがとうございます。今日はお世話になります。じゃあ、おやすみなさい」
「えー、もう少し話せば良いのに」
喜美恵さんが残念そうに引き下がっていく。
「じゃあ、また明日な。おやすみ」
「おやすみなさい。櫂さん」
その夜、まぁ、冷え込んでいたというのもあったが、一睡も出来なかったのは言うまでもなかった。

「なぜだぁ。なぜいないんだ」
 竹中 浩平は叫んでいた。
驚きが隠せなかった、というよりは落胆していたといったほうが良いかもしれない。彼にしては珍しいまでに早起きだったし、朝の九時にこの「玉蜀黍」の前に到着していること自体奇跡に近かった。そう、今日いう日が人生において最大の転機になるはずだったのだから。
「なぜだ。まさか、親が来て帰ったとか。いや、もしかして俺に取られまいと、櫂が連れて行った。くそぉ、あの野郎。さては嫌がる彼女を無理やり。しかし、あの櫂がそんな大胆なことが出来るわけないし、じゃあどこにいった。あぁ、玄さん。起きてたんだ。玄さんってば、昨日の彼女は、どこにいるんですか。ねぇ、玄さんってば!」
朝から近所迷惑な上に、起こされて戸を開けたらこれだ。起きたばっかりの彼が知るはずもない。
「日曜の朝から家の前で叫ばないでくれる。そんなの知らないよ。あぁ、喜美恵が書置きで、由利ちゃんと櫂君を連れて買い物行きますって書いているわ」
「そんなー。うそだろ。こんなのあんまりだー」
「そんなこといわれてもな」
もはや彼の愚痴で日曜が潰されようとは彼には知る由もなかった。玄さんは仕方なく、悩める青年を店に招き入れた。
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テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

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会社員となり、日々ストレスとの戦い。
また、睡魔を相手に日々戦っております。






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