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18

私が全ての元凶。
勝手に涙が落ちる。
だけど、それだからこそすることは分かっている。
「彼だけは渡さない。命に代えてでも!」
そんな返事を期待していたのではなかったらしく、動揺させるための言葉が返って彼女に火を点けてしまった。
「ははっ、何を言い出すかと思えば、渡さない?それは元より私の物だ。それにお前も所持物であることは変わらんだろう。それに―――」
辺りの空気が一変して重くなる。喉に絡みつくような空気は息苦しいという言葉だけでは表せないほどの重量がある。
「―――お前ごときが私に勝てると本気で思っているのか?」
冷汗が頬を伝う。埋められない力の差は歴然だ。刺し違えても勝てるわけがない。足止めにすらならないことは自分が一番分かっていた。
それでも守りたい人が出来たから。
そこまでしても大切なものを得たから。
だから、後悔はしていない。ここですべて終わらせる。
もう誰も巻き込ませたりしない。
あの日見た空が、あの人が語ったことがこの胸にある限り私は戦える。
「歴戦の覇者、無限の矢。ここに最強を示し、すべてを薙ぎ払わん―――」
辺り一面に視界が埋まりきるほどの光球が現れ、由利の前には体の半分以上もあろう魔力の塊が形成されていく。
「――その地に塵も残さず、すべてを灰に変えよ!」
何百もの光球が放たれる。それらを追うように魔力の塊は尾を引き、地面を抉りながら爆音と黒煙に変わり、そこにいたはずの人影すら跡形もなく消し去った。
最後の切り札でもあるこの技は彼女にとって最強の技であり、これを使うときは彼女自身が覚悟を決めた時に使うと決めていた。
放たれた一撃ではまだ足りないとばかりにまだ光球が対象を襲い続ける。
それなのに・・・。
「どうして・・・」
それほどの攻撃でもその光景を目の辺りにしてでも不安が拭えない。
何でいくら撃っても手応えがない?
「何で?当たってよ。お願いだから・・・お願いだから倒れてよー!」
いくら叫んでも、いくら攻撃を繰り出しても倒したという感覚が湧かない。
その疑問に答えるかのように、黒煙の中から笑い声が響き渡る。
「ははははははっ、いいぞ、素晴らしい!この力。最高だ。ここまでの術式が使えるとは」
生きていた。というだけではない。あれだけの攻撃を受けて無傷なんてことはもう絶望としか言いようがない。
「感情の変化でここまで変わるとは思わなかった。いや、やはり偶然というのも捨てたものではないな。これで研究がかなり進展するぞ」
もう魔力がほとんど残っていない。それでも立ち向う。そう、負けられない理由があるからこそ足を前に一歩踏み出した。
だが、踏み出した足が捉まれる。危うく転びそうになる体を耐えて振り返るとそこには傷だらけでボロボロになった櫂がいた。
「何が偶然だ、ボケが。俺たちの出会いは必然だ。お前が勝手に割り込んできたんだろうが、だから―――」
傷だらけの体を持ち上げて、必死になって立ち上がる。体から溢れ出る血を刀に吸わせ、また新たな刀身を形成していく。そして、その切っ先を高原に向けて言う。彼女だけでない、自分の負けられない理由を。
「――あんたなんかに由利は渡さない!」

感情の高ぶりと共に周りの炎の勢いが増し始める。
「お前の母親の能力は完璧だった。オリジナルであり、それでいてあらゆる術式を同等の魔力をぶつけることにより相殺する。まさに理想の術式だ。だが、どうだ?あの女がお前に与えたのは中途半端なもの。本来の半分も力を出せずその程度だ。それでどう勝ちに来るというのかね?」
そんなことは自分が一番よく分かっている。それでも今この言い表せないほど湧き上がる感情が前へ前へと押し進める。
まるで優しく後押しされるように来る自信が、あの男の言葉をまったく受け付けない。
残された力を振り絞り、倒れこむように高原へと突っ込んでいく。
赤と青の双炎は互いに交差しながら、対象へと迫る。
止まるな、止まるな、止まるな!止まれば負ける。
震える足に鞭を打ち、前の恐怖に言い聞かせ、全てを無に切り替える。
対象だけを倒すように全ての感情をオフに変換する。
振り下ろした刃は炎を断ち切れるはずがないと先程のように考えていたのは浅はかだったのかもしれない。
目の前から迫ってくる敵は赤い刀身を溶かしながらも、確実にその歩みを進めていた。炎を相殺しながら斜めに振り下ろされる斬撃は本来の刀身だけ残されて放たれた。
「ばかな・・・そんなことが」
驚くのも当然だろう。その斬撃を繰り出している本人ですら、なぜ通ったのか分からないのだから。
勝敗はついた。だが――
「お前、本当に人間か?」
その台詞を待っていたように微笑んで答える。
「私とて魔術師、大将が自ら戦地に赴くわけがなかろう。代理をたてることくらいするさ。研究成果の下見くらい自分でしなければ、管理者としての立場がないだろう?」
「じゃあ、あんたは―――」
「言われずともここまでの深手を負ったのだ。この体ももう長くは持ちまい。また会おう。それまでは好きに過すがいい。ほら、トリックの種明かしだ」
腕を大きく横に広げたかと思うと、まるで何かにとり憑かれたように体が大きく揺れ動き始めた。
体型も顔つきも何もかもが別人に変っていく。先ほどまで話し続けていた高原はもういない。血を吐き散らし、崩れ落ちていく。
櫂が斬り込んだ傷ではない。別人の体である器が異物を取り込んでいた副作用によるものだ。それが斬られたことにより限界を超えたといったところだろう。
「くそっ―――」
やっと終わったが、全てが終わったわけではない。
ようやく枷が外れた歯車は回り始めたのだ。

今度こそ起き上がれない。もう立つ力すら、振り絞れない。
倒れゆく体を何かがそっと受け止める。
「いいんですよ。もう何も考えないで」
考えが解けていく。
「まったく、片瀬さんは初めて会った時から泣き虫だな」
「仕方ないじゃないですか。嬉しかったんですから」
頬に落ちてくる涙はそう悪いものでもない。
「そう言う櫂さんだって、さっきは由利って大きな声で叫んでいたのに、また片瀬さんだなんて、けっこう照れ屋さんなんですね」
うっ、それを言われると結構響く。それにその笑顔は反則だ。
「し、仕方ないだろう。あのときは無我夢中だったんだし」
「ふふっ、そう言うことにしときます」
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Author:白雲まくら
会社員となり、日々ストレスとの戦い。
また、睡魔を相手に日々戦っております。






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