スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

その3

今は遠く懐かしい日。
昔、母さんが言った。
小学校に入学ずる前のことだ。友達ができるか心配だった俺に、
「友達ってなってから分かることもあるんだから怖がらなくていのよ。人は裏切られたり、励ましあったりして強くなるんだから。だから、友達が出来たらその子を信じてあげれる人になりなさい。そうすればきっとその人も答えてくれるからね」
あのときはまだよく分からなかった。
今まで忘れていた懐かしい記憶。
こいつ等といてといて思い出した懐かしい思い出。


「いいか、お前の兄を俺ら三人で自首させる。その方針でいいんだな?」
うん、と小さく頷く。
「じゃあ、一つ条件がある」
「何だよ、条件って?」
「俺はお前らを信じる。だからお前らも俺を信じろ」
その言葉に落ち込んでいた水前寺も笑いだす。
「今さら、何言ってんだよ。そんなの主従関係とか言ってる時点で成立してるだろうが」
「まさか、一成の口からそんな言葉が聞けると思わなかった」
二人とも馬鹿笑いしやがって。
「とにかく!」
作戦はこうだ。と言っても大したことではない。
警察に言いつけると水前寺に直接呼び出させる。そこを待ち伏せて捕まえれば簡単に済むのだが、相手も段持ち。そう簡単には捕まえれないだろう。なら、一騎打ちは水前寺に任せ、せめて戦いやすいように武器であるバットを俺と大城の二人で奪い取る。
説得はそう簡単にはいかないだろうが。話した内容はすべてパソコンで記録するつもりだ。少しは相手にもある程度の罰は受けてもらわないといけないから。

実行するは明日。それまでに用意を整えるだけ。
帰る前に水前寺が話しかけてきた。
「ありがとうね。私のせいで巻き込んでしまって」
あぁ、そうか。やっと見つけたかもしれない
「心配するな。今度、また自己新記録に挑戦させてもらうから。覚悟しとけよ」
「うん」
そういうと少し涙ぐみつつも笑顔を見せた。
彼らが俺の無くしてしまった感情を取り戻してくれるなら、もう一度くらい裏切られても構わない。信じてやろうじゃないか。
「やっぱ俺、壊れかけてたんだな」
「えっ、何か言った?」
「いいや何でもない」

そう明日でこの事件が終わる。もう被害者は出させない。
だって、こいつ等を信じたからにはきっと、また人の輪に入ることになるのだろうから。

連絡は簡単についた。待ち合わせは津田橋の下にある公園。時間は夜の十時。ケースにパソコンを突っ込み家を後にする。
「よっ、そろったことだし行こうぜ」
大城も一応武器は持ってきているみたいだ。どこで手に入れたか知らないが、警棒を持っている。
「お前そんなもんどこで手に入れたんだよ?」
「いろいろルートはあるんだよ。教えてやってもいいけど?」
悪の道だけは入りたくない。
「いいや、遠慮しておく」
あたりは暗く、上の橋の明かりだけが公園を照らし出している。話し合いもそう簡単にはさせないみたいだ。場合によっては口封じのために自分が動きやすいように指定したのだろう。
「来たな」
そこに立つのは、この前見た男。手にはバットが握られている。
相手はやはり話し合いで済ます気はさらさらないみたいだ。
「どういうつもりだ?晶穂」
「どうもこうも兄さんが事件の犯人だから突き出すまでです」
「あなたが今話している内容はすべて記録して提出するつもりです。大人しく自首してください」
強がっているつもりでも声だけは震えている。
「はっ、お前らそこまでするってことは、採って(・・・)も(・)いいってことだよな」
相手の方が速い。
振り上げられたバットは真っ先に水前寺の方へ向かう。辛うじて避けたが様子がおかしい。
「あの馬鹿!」
自分の実の兄から向けられた紛れもない殺気にショックを受けたか。
再び振り下ろされるバット。
ガンッと音が響き渡る。
後で会話を記録する為に持ってきたパソコンが凹み、軋んでいる。
「ほぅ、そこまでその女が大事か?」
「まぁな、大事な収入源だ」
このしゃがんだ体勢でいつまで耐えてるか。
「そうか、やっと分かったよ。あんたの入れ墨の意味。あれは自らをエデンのリンゴと例えたのでなく、対象一人一人をリンゴと例え、禁忌を犯すことであんた自身が快楽を得ていた訳か」
無駄な会話で少しでも注意を逸らす。
「あの林檎の意味が理解できたのか。そうだ、だから今日は二つも採れる。まずはお前からだ」
押していた勢いを緩めた。そのため体勢を崩したのと同時にすぐさま横からの衝撃と共に飛ばされた。パソコンを持った方の肩に叩き付けられる。
「ぐっ―――!」
「じゃあな」
肩を使えなくするあたりが確かに手慣れている。さすがと言うべきか。迷いなき判断力と行動力。
だが――。
「まだ出るな!」
その声に反応し、振り向く。
しかし、向いた先には誰もいない。そう、これも作戦のうち。
―――それがあんたの命取りだ。多人数での強みは相手の気を逸らすこと。
「あんたなんかに―――」
痛む体を無理やり起こす。
「――これ以上好きにさせない!」
振り向き直した顔に隠していた撃退用スプレーをぶっかける。
「くそっ、ガキが」
視界を奪った。
「行けっ、大城!」
先ほど向いた方向とは反対側の草陰から声と同時に出てきた。
警棒は迷いなくバットを持った腕を叩きつけ、同時に落としたバットを持って、離れる。
「よし」
すべては計画通り。後は・・・。
「お前ら、タダで済むと思う…」
奴の会話はそこで遮られる。
「そこまでです」
そう、これが今回の作戦。あくまで俺達二人は陽動。武器は奪った。なら、あとはお前が最期をしめろ!
「なぜだ、何で俺の邪魔をする?あぁ、確かにこの行動の果てに待つのは裁きだ。俺自身この行為には何の快楽も得ていない。ただ、裁きが欲しいだけだ。こんな世界にいつまでもいて意味がないなら、せめて反抗してやる。だが、人が人を裁くなどふざけてる!」
手と手の取り合い。
「だから求めたんだ。絶対的な存在である神を。きっと俺を解放してくれるはずだと」
ふざけるな。神なんていやしない。救いの主などいるわけがない。いるならきっと俺はこんなにも苦しんでいないだろう。ならきっと・・・。
「お前も俺と同じで見放されたんだ。」
先に取られた方が投げられる。
取られたのは水前寺。だが、やはりレベルが違う。
「現役を退いて、武器に頼っている時点であなたの負けです。兄さん」
取られた腕はいとも簡単に外され、一瞬の間に地面へと叩きつけていた。
「ぐはっ」
抑え込まれては最早、力技だけでは抜け出せない。
人が神に罰して貰うなど都合のいい幻想だ。
所詮、彼らはいたとしても傍観者であり、それもまた人が作り出した幻想。
そう、これでこの事件もようやく幕と閉じた。

「本当に良かったのか?」
あの後、水前寺は通報してくれと頼んだ。
それはきっと自分自身も罪を背負うといったことなのだろうか。
いろいろなメディアで取り上げられたが、それでも頑張っているみたいだ。
「いいの、一成だって昔はこんな感じで騒がれていたんでしょう?だったら構わないよ」
何が構わないだ。意地張りやがって。
まぁ、それでも俺もまたこうして見つけかけているんだ。
「お前らが教えてくれるんだろう?ならそれも悪くないか」
「えっ、何か言った?」
「いいや、何にも」
「おい、一成。最近お前独り言多くないか?」
「あれだ、お前らに対しての不満が愚痴になってこぼれてんだよ。きっと」
あの時失ってしまった感情。
それが分かるなら、俺はこいつ等と共にいよう。
きっと、それが母さんが教えてくれた答えに繋がる筈だから・・・。
「飯でも食いに行くか?」
「えっ、マジ!」
「おごってくれるの?」
そんなの有り得ない。
「な、訳あるか奢るのはお前らだ。って言っても今日だけは特別だぞ」
「やったー!」と腕を回してくる水前寺。
「やめろ、恥ずかしいだろうが!」
「何、やっぱり君達そういう関係?」
「な、訳あるか。早く行くぞ。晶穂、賢人」
これにはさすがの二人も驚きを隠せないみたいだ。
「なになに?なんかいい事でもあった?」
あぁ、あったさ。
だって今日から俺の本当の日常が始まるんだ。
昼下がりの通学路。
俺達はゆっくりと歩き始めた。



私が彼と初めて会ったのは入学式のころだった。
あいさつを交わすその笑顔がすべて作り笑いに見えて、同時にそれが寂しそうにも見えたから。
「ねぇ、どうしてそんなに辛そうなの?」
だから声をかけてみたのだ。
本当にびっくりしていた顔を今でも覚えている。
「そう見えるなら、きっとそれは俺が空っぽだからだよ」

その日以来、最低限の付き合いしか見たことがない。
他人を拒絶したその生き方がとても不思議で、同時に自分と対称的な生き方に興味を持った。
いつからか彼に付き纏うようになっていたが、それはそれで楽しかった。
彼は坂上一成という名前ならしい。
上で呼ぶのも他人ぽいから一成と下の名までで呼ぶようにした。
はじめは嫌がっていたが、観念したみたいで
「好きにしろ」とだけ。

いつも怒っているような顔が印象的だった彼はある日こういったのだ。
「俺はお前らを信じる。だからお前らも俺を信じろ」
その時の私はひどく落ち込んでいて、それでもその言葉が胸に響いた。
“一成が守ってくれるもん”と何げなく言ったことがあったが、本当に助けてくれるとは思わなかった。
彼が動いてくれたのはきっと同じようなことがあったからだと思う。
だけど、それでも嬉しかったのだ。他人を避けてきた彼が誰かのために動いてくれたことが。
兄は捕まり、事件は幕を閉じた。
あの日以来報道が騒がしかったが、大城くんと一成がひたすら庇ってくれたから何とかやっていける。

授業が特にない火曜の昼下がり。
「飯でも食いに行くか?」と彼は言った。
その時初めて、“あぁ、本当はこんな顔もするんだ。”と知った。
そうか、私はこの顔が見たかったんだ。
純粋な子供のような笑顔。
ついつい嬉しくて腕に抱きついたが、やってみたら結構恥ずかしかったのを覚えている。
そのあと名前で呼ばれた時はびっくりして心臓が高鳴ったくらいだ。
それから私はきっと彼の空っぽな心の中に何かが入ったんだと。
だからこれからは私たちのことでいっぱいにしてやろうと思った。
そう、それがきっと彼に対しての私が出来る恩返しだから・・・。


スポンサーサイト

テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

白雲まくら

Author:白雲まくら
会社員となり、日々ストレスとの戦い。
また、睡魔を相手に日々戦っております。






著作権に関しては、無断転載・無断転用についてはご遠慮ください。 


FC2カウンター
つい言ったー。
最新記事
最新コメント
リンク
カテゴリ
フリーエリア
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
RSSリンクの表示
FC2ブログランキング

FC2Blog Ranking

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

月別アーカイブ
最新トラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。